令和3年4月9日(金)

晴天に恵まれたなか、令和3年度入学式を実施し、新入生307名を迎えました。

 

学校長式辞

式  辞


 遙か遠く、記紀万葉の時代(とき)より、三輪の山を仰ぎ見るここ桜井の地に、今年もまた心地よい春が訪れ、校庭のここそこに新たな生命(いのち)の息吹を感じる今日の佳き日、令和3年度奈良県立桜井高等学校入学式を挙行いたしましたところ、育友会長、同窓会代表、桜美井会会長様の御臨席を賜りましたこと、高壇からではございますが、厚く御礼申し上げます。
 また、本日、入学式に御列席いただきました保護者の皆様方にもお礼を申し上げますとともに、保護者の皆さま方には、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、僭越ながら御出席いただく方に条件をつけましたこと、壇上からではありますが、お詫び申し上げ、御協力を賜りましたことに、厚くお礼申し上げます。
 さて、ただ今、本校への入学を許可され、晴れて桜井高校生となったばかりの307名の皆さん、入学おめでとう。皆さんの入学を心から祝福し、歓迎します。本校は、三輪山の麓、南に多武峰を仰ぐこの敷島の地に明治37年4月、県民及び地元の熱い期待を受け開校された奈良県立桜井高等女学校を前身とし、戦後の学制改革により男女共学による奈良県立桜井高等学校と改称され、本年度で創立118年目を迎える県内屈指の歴史と伝統を誇る学校です。「普(あまね)く、絶えず、正しく」を校訓として、およそ3万2千名を超える卒業生を世に送り出し、今も各界で活躍しておられる先輩方がたくさんおられますことは、誠に喜ばしい限りです。
 本校の校訓である「普く、絶えず、正しく」の言葉は「すべてに対して、常に、正しいと信じることに最善を尽くす」という意味を表しています。皆さんが、この校訓に託された桜井高校の精神をしっかり受け継ぐとともに、自分たちの手で新たな歴史をつくるのだという意気込みをもって高校生活をスタートしてくれることを期待しています。
 ところで、本県では、令和3年3月に「第2期奈良県教育振興大綱」を策定し、今後4年間にわたって本県が目指す教育の方向性として、「本人のための教育」すなわち、「一人ひとりの『学ぶ力』『生きる力』をはぐくむ本人のための教育」を掲げました。では、皆さんにとって、「本人のための教育」すなわち「自分のための学び、生き方」とは何でしょうか? 
 現在、社会はかつてなく大きな変革期の中にあり、人工知能(いわゆるAI)、Internet of Things(いわゆるIoT)、ビッグデータ、ロボティックス等の先端技術が高度化し、われわれの生活や産業に取り入れられる新たな時代、すなわち「Society5.0」と呼ばれる超スマート社会の到来が予測されます。
 そして、グローバル化の進展に伴い、人・物材・情報の国際的移動がますます活性化し、さまざまな分野で「境界」の意義があいまいになり、今までは一つの社会の中で「正解」を発見すればよかった社会から、これからは多様な社会のなかで「正解」が見つからない社会へと転換していきます。
 このような社会の流れに対応するためには、従来の「学び」ではなく、新たな「学び」の枠組みを柱にした学習が必要となってきます。言い換えれば、「知識や技術を学ぶ学習」から、「学び方を学ぶ学習」への転換であり、常に目的意識を持って「正解」のない多様な社会を生き抜くための力を身に付ける学習といえます。これが「自分のための学び」ではないでしょうか。
 この「学び」を達成するために、私は、皆さんには、桜井高校での3年間で次の3点をしっかり身に付けて卒業してほしいと願っています。
 一つ目は、課題を探し発見し、その解決を提案する力です。これからの時代では、ただ単に課題を解決するだけの力では不十分です。ちまたに溢れかえる膨大な情報の中から、自分にとって、社会にとって、何が課題かを自ら見い出し、考え、解決を提案する力こそ必要となってきます。
 二つ目は、他者とつながり、集団のリーダーとなるための人間的魅力です。人権感覚に優れ、他者をいたわり、自分に自信をもった人物こそ、これからの社会にあっては重要となってきます。とりわけ、多様性が認められる社会にあって、壁を乗り越え、誰とでも豊かなコミュニケーションのとれる人間こそがもっとも信頼される人間となるのです。そのようにして、人間的魅力を磨いてほしいと思います。
 三つ目は、これらの二つを生み出すための土台となる、自分を変革する勇気です。壁にぶつかっても何度でも挑戦する粘り強さ、そのためには、心身ともに健康で、前向きな強い意志を獲得しなければなりません。
 この三つを身に付けるためには、自分の好きなことだけを学ぶ姿勢では不十分です。一般コースの人も、英語コースの人も、書芸コースの人も、自分の将来の目的意識をしっかりもち、「自分の将来に役に立つことを学ぶ」意識を忘れてはいけません。

 ただ、このような力に加えて、もっと大切なものがあることも知ってください。それは、「あなたはどのように生きるのか」ということへの自分の「答え」をもつことです。今から、120年ほど前に活躍した思想家の内村鑑三は、「後世への最大遺物」という本の中で、人間にとって実践可能な人生の真の生き方とは何かを問い、誰にでもできる、しかも、最も素晴らしい生き方として、「自分らしく、しかも勇ましい高尚なる生涯こそが最も大切である」と語りました。つまり、人間とって最も大きな財産とは、いかに生きるかによって決まると述べたのです。
 内戦の続くアフガニスタンで、医療活動と灌漑活動に長年人生を捧げ、現地の人々から「カカ・ムラド(ナカムラのおじさん)」と慕われながらも、1年半前に銃弾に倒れた中村哲さんは、自分の人生を変えた一冊の本として、この内村鑑三の「後世への最大遺物」をあげ、「いかに生きるかというこの教えは、まるでコタツの火種のように、心の奥から自分を暖める力となっている」と書き残しています。
 すなわち、人生にとっては、どのような成果を収めたではなく、どのように生きたかということこそが大切なのです。そのためには、たとえ、良い時でも悪い時でもベストを尽くすことが大切なのです。これは、どのような時代であっても変わらない一つの大事な真理で、しかも、誰にでもできることなのです。皆さんは、これからの3年間、一日一日を大切に充実した高校生活を送ることこそが大切であることを忘れないでください。
 本校では、朝夕の始業、終業時以外は、原則的に授業と授業の間のチャイムを鳴らさない、ノーチャイムでの学校生活に取り組んで10年になります。つまり、時間になればチャイムが鳴らずに授業が始まり、そして終わります。これは、チャイムに行動させられるのではなく、自分で見通しを立てて、主体的に行動することが大切だと考えているからです。このことも、「いかに高校生活を送るか」を考える機会にしてください。また、本校は、令和5年に開校120周年を迎えます。そのときは、皆さんは高校3年生で、最高学年です。その際には、本校のリーダーとして120周年を迎えられるよう、日々研鑽に励んでください。
 保護者の皆様方にお願いします。私たち教職員はお預かりいたしましたお子様一人一人の可能性を信じ、お子様の教育に全力を挙げて取り組む覚悟でございます。そのためには、学校と保護者の皆さまとの密接な連携と、相互信頼が不可欠となります。是非とも本校の教育方針、教育活動に御理解いただき、御協力並びに御支援をお願い申し上げます。
 結びなりますが、御多用の中、御臨席を賜りました、御来賓の皆さま方並びに保護者の皆様方には、今後も新入生を温かくお見守りいただくことをお願いするとともに、新入生皆さんの、これからの歩みを応援し、全力で支えることを、すべての教職員とともにお約束して、式辞といたします。

  令和3年4月9日
                                                          奈良県立桜井高等学校
                                                          校長 山 内 雅 雄