桜の蕾も膨らみはじめ、早春の息吹が至るところに感じられる今日の佳き日、奈良県立生駒高等学校 令和元年度第五十五回卒業証書授与式をこうして挙行できますことを心から嬉しく思います。本日は日曜日と重なり何かとご多用にもかかわりませず、PTA会長 春名奈津美様をはじめ保護者、ご家族の皆様方のご臨席を賜り、卒業生の門出に華を添えていただきましたこと、高段からではございますが、心から厚く御礼申し上げます。誠にありがとうございます。

 ただいま、卒業証書を授与されました三百十五名の卒業生の皆さん、卒業おめでとうございます。卒業証書を手にされ、皆さんの脳裏にはどのような想いが去来しているでしょうか。知識の習得に励んだ授業、青春のエネルギーを爽やかな汗に替えたクラブ活動、仲間との友情を深め合い、みんなで協力して一つのことを成し遂げることの素晴らしさを知った文化祭・体育大会・修学旅行といった学校行事でしょうか。校章や校歌にもある樫の木の精神を生駒高校の三年間でしっかりと身に付けてくれました。決して途中で諦めたり、へこたれたりしない。最後の最後まで全力で頑張り抜く。「真面目に一生懸命頑張ることが格好いい」という本校の良き校風をあらゆる場面で発揮してくれました。その中で、自分自身や仲間の素晴らしいところ、見習うべきところ、目に見える物見えない物を問わず、かけがえのないもの、大切にしなければいけないものをきっと見つけてくれたに違いありません。

 皆さんが手にした卒業証書は、皆さん一人一人のたゆまぬ努力と研鑽によって得られた成果に違いありませんが、その陰には深い愛情でいつも見守り続けていただいた家族の方々、友達、先生方など周りの多くの人たちの支えや励ましがあったからこそ手にすることができたずっしりと重たい物であることをしっかりと胸に刻んで感謝の気持ちを新たにしてもらいたいと思います。そして今日、家に帰れば、不器用でも構いません、必ずやその気持ちや想いを自分の言葉や態度でご家族に伝えてくれるものと信じています。

 さて、皆さんもよく知っている今年度の大きなニュースの一つに旭化成の研究者、名誉フェローの吉野彰さんがノーベル化学賞を受賞されました。吉野先生が化学に興味を持たれたきっかけは、小学校4年生の時に担任の先生から薦められた『ロウソクの科学』という本を読まれたことだそうです。「ロウソクはなぜ芯が必要なのか」「なぜ炎は黄色いのか」など、「おもしろいなあ」と思いながら読まれたのです。その本を入り口として、化学やものづくりに興味を持たれたそうです。人間いつどこで人生の転機が訪れるかわかりません。吉野先生の閃きと不断の努力が無ければ、私たちが享受している便利で快適な現在の暮らしはなかったかもしれません。こうして「現在のモバイル時代」は切り開かれていったのです。スマートフォンやデジタルカメラ、ノートパソコン、ハイブリッド車や電気自動車、航空機、太陽光発電、宇宙ステーションなど、毎日世話になっているこれらの数々の物が、吉野さん達が開発されたリチウムイオン電池のお陰で存在しているのです。軽量で高出力の上に何度でも充電して繰り返し使える画期的な技術を開発し、その成果が認められてのノーベル化学賞受賞となりました。リチウムイオン電池は、また、二酸化炭素排出削減の切り札としても高く評価され、地球温暖化対策への貢献も計り知れないほど多大なものがあります。このように、それまでは不可能と考えられていたことを可能にして進歩し続けてきたのが人類です。例えば、1970年代にアメリカ政府が既存の自動車の有害ガス排出水準を10分の1にすることを義務づけ、達成できない車の販売を禁止しました。マスキー法と言われる法律です。メーカー側は実現不可能だとして猛反発しました。アメリカやヨーロッパのメーカーが全く達成の見通しが立たず、もがき苦しんでいる中で、この基準を最初に達成したのが日本のメーカー、ホンダのCVCCエンジンです。続いて達成したのが、マツダのロータリーエンジン、日本のメーカーが相次いで不可能を可能にしてみせました。世界の人々は驚嘆し、その後、日本車は世界一クリーンな自動車で、しかも安価で高性能という評判を得て生産台数を飛躍的に伸ばし、現在に至っています。最初から不可能だと決めてかからずに、高い目標を掲げて行動に移し実践してみることが大切です。まさに江戸時代後期の米沢藩主 上杉鷹山の言葉「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」の通りです。先ずやってみて、たくさん失敗をする。失敗から学んだ経験が、きっと皆さんを大きく成長させ、どんな困難も乗り越えていく原動力となってくれるはずです。

 ただ、人生というのは、自分自身に問いかけながら一生懸命に努力し、粉骨砕身、真面目に歩みを進めていても上手くいかずに自信をなくしたり迷ったり、振り返ってみたくなる時もあります。そんな時は、どうかこの生駒高校という母校にゆっくり羽根を休めに帰って来てください。英気を養い、新たに行動を起こす元気と活力を取り戻して、また羽ばたいて行ってくれれば幸いです。生駒高校の門戸は皆さんにいつでも大きく開いています。

 卒業生の保護者の皆様、ご家族の皆様、お子様の生駒高校ご卒業、誠におめでとうございます。休日にも関わりませず、保護者、ご家族の方々にご出席を賜りましたことからも ひたすら慈しみ手塩に掛けて大切に育ててこられた証と再認識しております。それ故、これ程までに立派に成長されましたお子様の勇姿に感慨もひとしおのこととご推察申し上げます。生駒高校での三年間の高校生活を経て、お子様は心身ともにたくましく、頼もしい大人へと成長されました。どうかお子様の輝ける前途を温かく見守り、時には励まし、これからも支えていただきますようにお願いいたします。

 三年間にわたり、本校教育活動に多大なるご支援ご協力を賜り、誠にありがとうございました。教職員を代表して心から厚くお礼を申し上げます。これからも引き続き、生駒高校の益々の発展と飛躍にご指導ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。