盲学校 学校長日誌(7)

鈴とコミュニケーション

 ろう学校に長く勤めてから盲学校に赴任して初めに思ったことは、盲学校ではろう学校のようにコミュニケーションが成立するかどうかといった問題で悩まなくてもいいのでは、ということでした。普通に音声でコミュニケーションできるのでそういう意味では障壁は少ないのではと思っていました。
 しかし、しばらくするとそうでもないということが分かってきました。ろう学校の場合、聞こえない子どもや先生とコミュニケーションするための作法としては、まず視界に入り、次に相手がこちらを見てコミュニケーションを受け取るという視線の合図を受けてから、こちらも相手の目を見て話し始める、というふうになります。これは手話でも口話でも基本的には同じです。ただ、口話よりは手話を使った方がより対等なコミュニケーションに近づきます。
 しかし、盲学校では見えない子どもや先生たちにとってただすれ違うだけではそこに誰がいるのかも分からないので、それだけでは対等なコミュニケーションが成り立ちにくいということを日々感じました。こちらはどこに誰がいるか分かっているので話しかけたかったら話しかけるし、とくに用事がなければすれ違うだけで済ます。しかし見えない人にとっては、本当はその人がそこにいると分かっていれば話しかけたい内容があるのに、分からないと自分からは話しかけることができず、相手から話しかけられるのを待つだけになってしまいます。これでは対等ではないと思うのですが、それならすれ違うたびに「ここに誰々がいますよ」といちいち声をかけるのも不自然な感じがします。子どもたちや先生方に出会ったらなるべく「こんにちは」と声をかけて、声で自分がいることを伝えようとしましたが、なかなかすべてのすれ違いに「こんにちは」と言い続けるのも大変だと思いました。
 そんなとき、奈良県視覚障害者福祉センターに見学に行く機会があり、そこの所長さんが見えない職員に分かりやすいように業務中は首から鈴を下げて過ごしている、という話を聞きました。何人かの職員が違う音色の鈴を下げて、それで区別をしてもらっているとのことでした。
 これは簡単できてなかなかいい方法だと考え、その場にいた全盲の先生に提案すると、「やってもらえるとありがたい」ということだったので、11月の初めから首からさげる名札と一緒に鈴をつけています。
 この鈴は〈ねこのタマ〉みたいだと思っている人もいるのですが、よく見ると小さな豚の形をしています。まあそれはどうでもいいのですが、鈴をつけてからとくに盲学校では校長がどこにいるかわかって便利と、おおむね好評で受け止めてもらっています。ろう学校ではとくに必要はないのですが、いちおう同じようにつけていて、尋ねられたら主旨を説明しています。
 先日私の前を歩いていた全盲の先生が鈴の音を聞いて振り向き、「あっ、校長先生!実は…」といって用件を話してくれました。鈴をつけていなかったら基本的にこのコミュニケーションは成り立たなかった(足音で聞き分ける人もいるようですが)ので、小さな鈴がコミュニケーションに貢献していると感じる場面でした。
 バリアフリーや合理的配慮には〈ハイテク〉と〈ローテク〉があるとよく言われます。鈴は明らかに〈ローテク〉ですが、効果はけっこう大きいのかなと思います。なぜなら〈ローテク〉にこそ心理的なバリアを取り除くヒントが含まれていると思うからです。
盲学校の専門性の奥深さに私はまだまだついていけてはいませんが、コミュニケーションという切り口から考えることも大事ではないかと思っています。