令和3年度 第16回卒業証書授与式 式辞

 榛の丘に令和の風がそよぐようになり、3年の月日が流れようとしています。そして、校庭の桜が、春本番の開花に向けて、密やかその備えを進めている今日の佳き日、令和3年度 奈良県立榛生昇陽高等学校 第十六回卒業証書授与式を挙行できますことは、卒業生はもとより、私ども教職員にとりましても、大きな喜びであります。
また昨年度に引き続き、本年度も、県教育委員会の通知もあり、新型コロナウィルス感染症対策の一環として、前川育友会長様と卒業生の保護者の皆様のみのご列席とはなりましたが、ご理解とご協力を賜りましたこと、厚く御礼申し上げます。

ただ今、卒業証書を授与しました135名の皆さん、ご卒業、おめでとうございます。心からお祝い申し上げます。

皆さんが本校で過ごした年月の内、2年間はコロナ禍の中での学校生活でした。施設実習、招待交流といった学習活動、校外学習、体育大会、文化祭といった学校行事を中止せざるをえなかったり、本校ならではの取組である地域連携、ボランティア活動等を充分に実施できなかったことは非常に残念なことでした。
しかしながら、「自己を磨き、生き方を学び、未来に挑戦する」という学校目標のもと、皆さんが勉学やクラブ活動、生徒会活動、ボランティア活動等に、限られた条件のもとで、精一杯取り組んでこられた足跡は、令和5年に創立百周年記念式典を迎える本校の1ページにしっかりと刻まれると同時に、榛生昇陽高等学校の伝統の一環として、4月に開校する宇陀高等学校に、引き継がれていきます。

さて、2年に及ぶコロナ禍は、我々の社会に大きな変化をもたらしました。健康や医療に対する関心と意識が高まり、同時に、三密の回避、オンラインによる学習、リモートワークなど、新しい生活様式や学習形態、働き方が生み出されました。
また、コロナ禍の中にあっても、科学技術は、着実に進歩し続けています。一例を挙げれば、これまで一部の宇宙飛行士に限られていた宇宙空間での滞在を、民間人が経験できるまでに科学技術は進歩を遂げているのです。
同時に、我々の社会も、情報社会の次の段階である超スマート社会、すなわちソサイエティー5.0と呼ばれる段階に移行しつつあります。ソサイエティー5.0では、高度に発達したAI、人工知能が、生活や産業の中に浸透し、十年後には、今ある仕事の半分は無くなり、私たち人間が担う役割、社会の在り方が劇的な変化を遂げていると考えられています。

そして、このような状況の中では、我々の関心は、ともすれば、社会の変化と科学技術の発達、すなわち外の世界に向けられがちですが、激動の時代であるからこそ、我々が立ち止まって目を向けなければならないものがあると思えてなりません。

かつて、脚本家のジェームス三木氏は次のように語りました。

「宇宙全体よりも 広くて深いもの
それはひとりの 人間のこころ」

卒業生の皆さん。皆さんは、今後、日々変化し、驚異的なスピードで科学技術が進歩する社会を歩むことになります。

しかし、忘れないください。私たちが真に関心を向けなければならないのは、我々の内なる世界、すなわち人のこころであるということを。私たち一人一人が生きていく上での拠り所とすべきは、人のこころに寄り添うことであるということを。

卒業生の皆さん。忘れないでください。あなた方は、私たちの未来なのです。あなたが自分の夢の実現のために積み重ねる一つ一つの努力は、あなたを幸せに導くだけでなく、あなた以外の人をも幸せできる礎になっていくということを。

忘れないでください。新たな一歩を踏み出すことに不安を抱いているあなた。悩みつつも誠実に生きようとするあなたの姿から、「苦しいのは自分一人ではないのだ」と、前に進む勇気をもらっている人がいるということを。

卒業生の皆さん、無くさないでください。皆さんが、今日のこの佳き日を迎えることができたのは、皆さん自身の努力に加え、ご家族の方々をはじめとして、多くの方々の支えがあったからだという感謝の気持ちを。

終わりにあたり、保護者の皆様方、本日は、お子様のご卒業、本当におめでとうございます。そして、お子様のご入学以降、本校の教育活動に深いご理解とご協力をいただき、ご支援を賜りましたことに厚くお礼申し上げます。
お子様をお預かりして、皆様の期待どおりに成長させることができたか、心配なところではございますが、今日ここに、皆様のお手元にお返しすることになりました。これからの人生には、様々な出来事が待ち受けています。楽しい事ばかりではなく、苦しい事も多いと思いますが、くじけそうな時には、そっと背中を押してあげてください。
また、今後とも、本校と本校を受け継ぐ宇陀高等学校の発展のために、ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

卒業生の皆さん。皆さんが入学して以降、私たち教職員は、あなた方と多くの思い出を作ることができました。坂道を上り始めたあなた達の背中を押す機会に恵まれて、私たちはとても充実した日々を送ることができました。たくさんの思い出をありがとう。

そして、ご卒業、本当におめでとうございます。くれぐれも健康に留意し、それぞれの道で、目標に向かって挑戦し続けてください。そして、人のこころに寄り添う人であり続けてください。皆さんの輝かしい前途に幸多かれとお祈りし、式辞といたします。

                                            令和4年3月1日
                                            奈良県立榛生昇陽高等学校
                                            校長  西 浦  太衛門